・WAVとFLACって、結局どっちが音がいいの?
・MP3で保存して後悔したくないけど、容量が心配
CDコレクションをデジタル化(リッピング)して整理しようと思ったとき、最初にぶつかるのがこの「保存形式(ファイルフォーマット)」の問題です。
iTunesやMusic Centerなどのソフトを開くと、AAC、MP3、WAV、FLAC、ALAC……と、呪文のようなアルファベットが並んでいて、どれを選べば正解なのか分からなくなってしまいますよね。
結論から言えば、今の時代、CDの音質をそのまま残したいなら「FLAC」または「ALAC」を選んでおけば間違いありません。しかし、用途や環境によっては「WAV」が良い場合もあれば、「AAC」で十分な場合もあります。
このページでは、一度リッピングしたらやり直すのが大変な作業だからこそ失敗したくないあなたのために、主要な音声フォーマットの音質と容量の違い、そして仕組みまでを徹底的に深掘りして比較解説します。
「なんとなくMP3」で済ませていた方も、この記事を読めば、自分のライブラリに最適な形式が論理的に選べるようになるはずです。
ちなみに、「そもそもCDの音質スペック(44.1kHz/16bit)ってどういう意味?」という基礎知識については、以下の親記事で詳しく解説しています。こちらを先に読んでおくと、この後の「圧縮」の話がよりスムーズに理解できます。

音声フォーマットの基礎:3つのグループを理解しよう
具体的な形式の比較に入る前に、まずは大きく分けて3つのグループがあることを理解しておきましょう。ここを理解するだけで、選び方の8割は決まります。
- 1. 非圧縮(ひあっしゅく):
CDのデータをそのままコピーしたもの。
代表格:WAV, AIFF - 2. 可逆圧縮(かぎゃくあっしゅく):
データを圧縮してサイズを小さくするが、再生時に「完全に元のデータに戻る」もの。音質劣化ゼロ。ロスレス(Lossless)と呼ばれる。
代表格:FLAC, ALAC (Apple Lossless) - 3. 非可逆圧縮(ひかぎゃくあっしゅく):
人間の耳に聞こえにくい部分をカットして、劇的にサイズを小さくするもの。元の音には戻せない。ロッシー(Lossy)と呼ばれる。
代表格:MP3, AAC
昔(2000年代前半)はハードディスクの容量が少なかったため、3番目の「MP3」などが主流でした。しかし、ストレージが大容量かつ安価になった現在は、1番か2番を選ぶのがオーディオファンの常識となりつつあります。
では、それぞれの形式について、技術的な側面も含めて詳しく見ていきましょう。
「WAV(ワブ)」:音質の絶対王者?その誤解と真実
WAVは、Windowsの標準的な音声形式です。CDに記録されているデジタル信号(PCMデータ)を、何も足さず何も引かず、そのまま容器に移し替えただけの状態です。
メリット:互換性と安心感
WAVの最大のメリットは「非圧縮であることの安心感」と「互換性の高さ」です。
加工を一切行っていないため、再生機器側のCPUに「解凍」という負荷をかけさせません。理論上、最も純粋なデータと言えます。また、非常に古いソフトや特殊な業務機器でも、WAVなら再生できるというケースが多いです。
デメリット:タグ情報の弱さと容量
しかし、リッピング用途としてWAVには致命的な弱点が2つあります。
CD1枚(約60分)で、約600MB〜700MBもの容量を消費します。
これが一番の問題です。MP3やFLACなどは、ファイルの中に「アーティスト名」「アルバム名」「ジャケット画像」などの情報(メタデータ)を規格として埋め込めます。
WAVも進化して埋め込めるようにはなりましたが、再生ソフトによってはこれが文字化けしたり、そもそも表示されなかったりというトラブルが起きがちです。「アルバムアートワークが表示されない!」というトラブルの多くはWAVで発生します。
「FLAC(フラック)」:現代の標準スタンダード
現在、ハイレゾ配信サイトやオーディオマニアの間で最も標準的に使われているのがFLAC(Free Lossless Audio Codec)です。
なぜ「圧縮」しているのに「音質が変わらない」のか?
ここが多くの人が疑問に思うポイントです。「圧縮したら、何か失われるんじゃないの?」と。
FLACの圧縮は、コンピュータの「ZIPファイル」と同じ仕組みだと考えてください。
つまり、FLACは「音質はWAVと全く同じ」でありながら、ファイルサイズをWAVの60%〜70%程度に小さくできる魔法のような形式なのです。
メリット:タグ管理が完璧
FLACはメタデータの規格がしっかりしており、ジャケット画像や歌詞データなどを埋め込んでも、ほとんどのプレイヤーで正確に表示されます。管理のしやすさはWAVより遥かに上です。
「ALAC(アップルロスレス)」:iPhoneユーザーの最適解
ALAC(Apple Lossless Audio Codec)は、名前の通りAppleが開発した可逆圧縮形式です。
基本的な仕組みや音質は、FLACとほぼ同じです。「Apple版のFLAC」と考えて差し支えありません。
なぜALACが存在するのか?
かつてiTunes(現Apple Musicアプリ)やiPhoneは、長い間FLACの再生に対応していませんでした。そのため、Apple製品で高音質を楽しみたい場合はALAC一択だったのです。
現在はiPhoneもファイルアプリ経由などでFLACを扱えるようになりましたが、iTunesでの管理やiPhoneへの同期のしやすさを考えると、Appleのエコシステム中心で生活している人には依然としてALACが最も親和性が高い形式です。
徹底比較:FLAC vs WAV vs ALAC
では、主要3形式を表で比較してみましょう。
音質(データ精度)
- WAV:最高(元のまま)
- FLAC:最高(解凍すれば元のまま)
- ALAC:最高(解凍すれば元のまま)
ファイル容量(CD1枚あたり)
- WAV:約 650MB
- FLAC:約 400MB(WAVの約6割)
- ALAC:約 410MB(WAVの約6割)
タグ情報(ジャケット等)
- WAV:△ 苦手(ソフトによる)
- FLAC:◎ 非常に優秀
- ALAC:◎ 非常に優秀
再生互換性
- WAV:◎ ほぼ全ての機器で再生可能
- FLAC:◎ 現在の主流(Android, ウォークマン, カーオーディオ等)
- ALAC:○ Apple製品に強い。一部の古いカーオーディオ等では非対応の場合も。
「WAVの方が音が良い」という都市伝説について
オーディオ界隈では、「理論上は同じでも、聴感上はWAVの方が音が良い」という意見が根強くあります。
これは、FLACなどを再生する際、圧縮されたデータを元に戻す(デコードする)処理がリアルタイムで発生するため、再生機器のCPUにわずかな負荷がかかり、それがノイズ(ジッター)の原因になる…という理屈です。
しかし、現代のPCやスマホ、DAPの処理能力は飛躍的に向上しており、この「デコード負荷」は無視できるレベルになっています。
ブラインドテスト(目隠しをして聴き比べる実験)をしても、WAVとFLACを聞き分けられる人は、プロのエンジニアを含めてもほぼ居ません。
よほどの超高級ハイエンドオーディオシステムでない限り、「音質差は気にしなくていい」というのが現代の結論です。
MP3(非可逆圧縮)との決別:何が失われているのか?
容量を節約したい場合、MP3やAAC(320kbpsなど)を選ぶ人もまだ多いかもしれません。
しかし、これらは「非可逆圧縮」であり、一度変換すると二度と元のCD音質には戻せません。
具体的に何が捨てられているのでしょうか?
静かなバラード曲や、クラシック、ジャズなどの生楽器の演奏では、この「間引かれた部分」の差が意外と大きく感じられます。シンバルの余韻が不自然に途切れたり、ボーカルの息遣いが平坦になったりするのです。
スマホの容量がどうしても足りない場合を除き、保存版(マスターデータ)としてMP3を選ぶことはおすすめしません。
結論:あなたにおすすめの保存形式はこれ!
ここまでの比較を踏まえて、あなたの環境や目的に合わせた「最適解」を提案します。
おすすめ:FLAC(圧縮率レベル5)
最も汎用性が高く、ファイルサイズと音質のバランスが完璧です。将来的にどのソフトに移行しても困ることはありません。Windowsの「Music Center for PC」や「EAC」を使って取り込むならこれ一択です。
おすすめ:ALAC(Apple Lossless)
Apple製品との連携が最もスムーズです。iTunes(ミュージックアプリ)で取り込む際は、設定で「Apple Losslessエンコーダ」を選択してください。
おすすめ:WAV(16bit / 44.1kHz)
編集ソフトの中には、FLACなどの圧縮ファイルを読み込む際に変換処理が入って重くなるものがあります。編集素材として使うなら、CPU負荷の少ないWAVが扱いやすいでしょう。
リッピングソフトの設定に関する注意点
最後に、どの形式を選ぶにしても重要な設定があります。それは「エラー訂正」です。
CDドライブで読み込む際、ディスクの傷や汚れで読み取りエラーが起きることがあります。iTunesなどの標準設定では、エラーがあっても無視して(音飛びしたまま、あるいは補間して)高速で読み込んでしまうことがあります。
Windowsならフリーソフトの「Exact Audio Copy (EAC)」、Macなら「XLD」など、読み取り精度を重視した(Secure Ripping機能のある)ソフトを使うのがベストです。
これらは「正しく読めるまで何度も読み直す」機能があり、CDのデータをビット単位で正確に吸い出すことができます。
まとめ:ハードディスクは買い足せるが、時間は戻せない
幸いなことに、現在はHDDやSSD、microSDカードの価格が非常に安くなっています。数千円で買える128GBのSDカードがあれば、FLAC形式のアルバムが約300枚〜400枚も入ります。
容量を気にして音質を犠牲にする時代は終わりました。未来の自分のために、ぜひFLACやALACといった「ロスレス形式」で、大切な音楽コレクションを最高品質のまま保存してあげてください。
保存したその高音質データは、以下の記事で解説しているような「ハイレゾ級へのアップスケーリング」を楽しむ際にも、最高の素材として活躍してくれるはずです。





CD100枚を取り込んだ後に「やっぱり音質にこだわりたいから、MP3からFLACでやり直そう」と思っても、また何十時間もかけてCDを入れ替える作業をしなければなりません。それは本当に大変です。