レノボのパソコンを検討する際、どうしても目に入ってくるのが「セキュリティが危険」「バックドアがある」という不穏な噂です。
かつてネットニュースを騒がせたこれらの話題は、現在どのようになっているのでしょうか?本当にレノボのPCを使うと情報が抜かれてしまうのでしょうか?
この記事では、親記事で触れた「買わない方がいい理由」の中でも、特にユーザーの不安が大きい「セキュリティ問題」に焦点を当て、エンジニア視点で徹底的に検証します。
過去の不祥事の正確な技術的背景から、現在レノボが導入している強固なセキュリティシステム「ThinkShield」、そして「米沢生産モデル」の安全性まで、事実に基づいて解説します。
なお、レノボ製品の評判や「買わない方がいい」と言われる一般的な理由全体については、以下の記事で詳しく解説しています。全体像を把握したい方は、まずこちらをご覧ください。

「バックドア」の噂の正体:過去のSuperFish事件を正しく理解する
レノボのセキュリティに対する不信感の決定的な原因となったのが、2014年から2015年にかけて発覚した「SuperFish(スーパーフィッシュ)」問題です。
ネット上では「スパイウェアが入っていた」「情報を中国に送信していた」とざっくり語られがちですが、正確にはどのような問題だったのでしょうか。
SuperFish問題の技術的な核心
SuperFishは、レノボの一部のコンシューマー向けノートPCにプリインストールされていた「Visual Discovery」という広告表示ソフトです。
このソフトの目的は「ユーザーが見ている製品に似た安い商品を広告として表示する」ことでしたが、その仕組みに重大な欠陥がありました。
・通信ののぞき見 暗号化された通信(SSL/TLS)を一度解除し、自社の広告を挿入してから再暗号化するという挙動を行っていました。
・自己署名証明書のインストール この挙動を実現するために、PC内に勝手に「ルート証明書」をインストールしていました。これにより、本来安全であるはずの銀行や通販サイトへの通信も、外部から傍受できる脆弱性(セキュリティホール)が生まれてしまったのです。
つまり、「悪意を持って個人情報を盗むスパイウェア」というよりは、「広告を表示させるための強引な仕様が、結果としてハッカーに悪用されかねない重大な穴を開けてしまった」というのが技術的な真実です。
現在は完全に解決済み
この問題発覚後、レノボは直ちにサーバー側の機能を停止し、削除ツールを公開しました。さらに、2017年には米連邦取引委員会(FTC)と和解し、第三者機関による定期的なセキュリティ監査を受けることに合意しています。
むしろ、この事件をきっかけにレノボは「他社以上にセキュリティに厳しくならざるを得なくなった」ため、現在の出荷時チェック体制は非常に厳格化されています。
現在の安全性:最強の盾「ThinkShield」とは
過去の教訓を生かし、現在レノボがビジネス向けPC(ThinkPadなど)を中心に展開しているのが、「ThinkShield(シンクシールド)」という包括的なセキュリティソリューションです。
単なるウイルス対策ソフトではなく、ハードウェアレベルでPCを守る仕組みが構築されています。
自己修復するBIOS(Self-healing BIOS)
ハッカーがOS(Windows)よりも深い階層であるBIOS(PCの基礎プログラム)を攻撃した場合、従来のPCでは起動不能になります。
しかし、レノボのThinkShield対応モデルは「自己修復BIOS」を搭載しています。 万が一BIOSが改ざんされたり破損したりした場合、自動的にバックアップから正常なBIOSを復元し、攻撃を無効化します。
物理的な覗き見防止とカメラカバー
ソフトウェアだけでなく、物理的な防御も徹底されています。
・PrivacyGuard(プライバシーガード) ボタン一つで画面の視野角を狭くし、隣の席や後ろからの「のぞき見」を防ぐ機能をディスプレイに内蔵しているモデルもあります。
サプライチェーンの透明性
「製造過程で余計なチップが埋め込まれるのではないか?」という懸念に対しても、レノボは「Trusted Supplier Program」を実施しています。
部品の供給元を厳格に審査し、製造から出荷までのトレーサビリティ(追跡可能性)を確保することで、不正な改変が起きないよう監視しています。
「中国製だから危険」は本当か?米沢生産モデルという選択肢
「機能がすごくても、中国メーカーである以上、政府の命令でバックドアを仕込む可能性があるのでは?」
このような地政学的なリスクを懸念する声も根強くあります。しかし、この点についても客観的な事実を見る必要があります。
世界中の企業・官公庁での採用実績
もしレノボ製品に国家レベルで危険なバックドアが存在するなら、機密情報を扱う世界中の大企業が採用するでしょうか?
実際には、フォーチュン500(全米上位500社)の多くの企業がThinkPadを採用しています。また、日本の官公庁や大企業でも標準PCとして広く導入されています。
究極の安心「米沢生産モデル」
それでも「海外の工場で組み立てられるのが不安」という方のために、レノボは日本国内での生産体制を持っています。
山形県米沢市にあるNECパーソナルコンピュータの工場で生産される「米沢生産モデル(Made in Japan)」です。
ここでは、熟練した日本の技術者が組み立てと厳格な品質チェックを行っています。「レノボのコスパは魅力だが、安心はお金で買いたい」という層にとって、この日本国内生産モデルはセキュリティと品質の両面で最も信頼できる選択肢となっています。
なぜITエンジニアはThinkPadを選ぶのか
セキュリティに最も敏感な職業であるITエンジニアやプログラマーの間で、ThinkPadの使用率は依然として非常に高いです。
彼らがレノボを選び続ける理由は、単なるスペックだけではありません。
1. 業務を止めない堅牢性 米軍調達基準(MIL-SPEC)をクリアする頑丈さで、物理的な故障によるデータ損失リスクが低い。
2. トラックポイントの生産性 キーボードから手を離さずに操作できるため、作業効率が圧倒的に高い。
3. エンタープライズレベルのセキュリティ 前述のThinkShieldや、指紋認証・顔認証の精度の高さが、業務利用に耐えうると判断されている。
「セキュリティがザルなPC」を、セキュリティのプロたちが愛用することはあり得ません。現場の支持の厚さが、安全性の何よりの証拠と言えるでしょう。
まとめ:レノボのセキュリティは現在「強み」になっている
かつてのSuperFish問題は、レノボにとって痛恨のミスでした。しかし、その失敗があったからこそ、現在のレノボは他メーカー以上にセキュリティに対して神経を使い、強固な対策を講じています。
「ネットの噂」で選択肢から外してしまうのは、これだけコスパと性能に優れたPCを見送ることになり、非常にもったいないと言えます。
一般ユーザーはもちろん、ビジネス用途であっても、現在のレノボPCは安心して使える安全なデバイスへと進化しています。



