人間の耳にハイレゾは聞こえない?CD規格「20kHzの壁」と倍音成分がもたらす脳への効果

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・人間の耳は20kHz(2万ヘルツ)以上の音は聞こえない
・だからCDの規格(上限20kHz)で十分であり、ハイレゾは無意味だ

オーディオの世界では、このような議論が何十年も繰り返されてきました。

確かに、健康診断の聴力検査で使われるような「ピー」という音(正弦波)だけでテストをすれば、大人で16kHz〜20kHz以上の音を聞き取れる人はまずいません。

しかし、不思議なことに、その「聞こえないはずの音」を含んでいるハイレゾ音源やアナログレコードを聴くと、多くの人が「音が柔らかい」「臨場感がある」「感動する」と感じるのもまた事実です。

・聞こえていないのに、なぜ違いを感じるのでしょうか?

実は、私たちの体や脳は、耳では捉えきれない皮膚で感じる音無意識下の信号を受け取っているという科学的な研究結果が存在します。

この記事では、CD規格が定めた「20kHzの壁」の意味と、その壁の向こう側にある「倍音成分」が人間の脳に与える驚きの効果について、最新の音響科学の視点から深掘りします。

なお、CDの「サンプリング周波数44.1kHz」がなぜ20kHzまでの音しか記録できないのか、その計算式や基礎知識については、以下の親記事で詳しく解説しています。

一般的なCDの音源に必要なサンプリング周波数やビット深度ってなに?
・CDの音質ってどのくらい良いの? ・ハイレゾとCD、結局何が違うの? ・サンプリング周波数とかビット深度って書いてあるけど、数字の意味がわからない… 音楽の世界に一歩踏み込むと、こうした専門用語の壁にぶつかることはありませんか? 少しで...

「20kHzの壁」は誰が決めたのか?

まず、なぜCDは「20kHzまで」という制限で作られたのでしょうか?

これは1980年代初頭、CDという規格を策定する際に、ソニーとフィリップスの技術者たちが決めたルールです。

サンプリング定理のルール
アナログ信号をデジタル化する際、「記録したい周波数の2倍」のサンプリング周波数が必要です。

人間の可聴域の上限は一般的に20kHzとされています。そのため、20kHz × 2 = 40kHz

これに少し余裕を持たせて、44.1kHzというサンプリング周波数が設定されました。

この決定は、当時のデータ容量の制約やコストを考えれば、極めて合理的で優秀な判断でした。「どうせ聞こえない音なら、カットしてデータ量を節約しよう」というわけです。

しかし、これはあくまで「単音(サイン波)が耳に聞こえるかどうか」という基準だけで引かれた境界線でした。

実際の音楽、つまり「複雑な波形」においては、話が少し変わってくることが後に分かってきます。

楽器は「聞こえない音」を大量に出している

私たちが普段耳にしている楽器の音には、楽譜に書かれた音程(基音)以外に、その何倍もの高さの音である倍音(ばいおん)が含まれています。

例えば、バイオリン、トランペット、シンバル、そして人間の声。

これらの音をスペクトルアナライザーという機械で分析すると、可聴域を遥かに超える50kHz〜100kHz近くまで、豊かなエネルギーが出ていることが確認できます。

倍音成分が多い楽器の例
  • ガムラン(インドネシアの民族楽器):
    極めて複雑な高周波成分を含み、100kHzを超える音が計測されることもあります。トランス状態を誘発する音楽として有名です。
  • バイオリン:
    豊かな響きには、人間の耳には聞こえない高次の倍音がたっぷり含まれています。これが「」の正体です。
  • チェンバロ:
    弦を弾く鋭い立ち上がりの瞬間に、強烈な超高周波が発生します。

CD規格(20kHzカット)では、これらの楽器が発している成分の「上澄み」をバッサリと切り捨てて記録しています。

聞こえないから関係ない」とされてきましたが、実はこの切り捨てられた部分にこそ、音色の豊かさ空気感が隠されていたのです。

科学が証明した「ハイパーソニック・エフェクト」

聞こえない音」が人間に影響を与えることを科学的に示した有名な研究があります。

日本の科学者、大橋力博士(元・文部省放送教育開発センター教授)らが提唱したハイパーソニック・エフェクトです。

この実験結果は、オーディオ界だけでなく脳科学の分野にも衝撃を与えました。

実験の内容
被験者に、ガムラン音楽を以下の条件で聴かせ、脳波や血流を測定しました。

条件A:可聴域(20kHz以下)の音だけを聴かせる。(CD相当)
条件B:超高周波(20kHz以上)の音だけを聴かせる。(人間には無音に感じる)
条件C:可聴域と超高周波を同時に聴かせる。(ハイレゾ/生演奏相当)

衝撃の実験結果

  • 条件A(CD相当):脳波に大きな変化なし。
  • 条件B(超高周波のみ):無音に感じるため、変化なし。
  • 条件C(同時再生):脳幹や視床下部の血流が増加し、α波(リラックス状態を示す脳波)が活性化した。

つまり、耳に聞こえる音と、聞こえない超高周波が「セット」になって初めて、人間の脳の深い部分(快感や自律神経を司る部分)が反応するということが分かったのです。

耳ではなく「体」で聞いている?

さらに興味深いことに、この実験では「超高周波をイヤホンで耳だけに聴かせても効果が出ず、スピーカーで全身に浴びせた時に効果が出た」という報告もあります。

これは、超高周波を捉えているのは耳(鼓膜や蝸牛)だけでなく、体表面(皮膚など)である可能性を示唆しています。

音を浴びる」という表現が使われますが、まさに私たちは全身でハイレゾ(高周波)を感じ取っているのかもしれません。

数値には表れない「音の滲み」と「位相ズレ」

脳科学的なアプローチとは別に、デジタル信号処理の技術的な観点からも、CD規格の弱点は指摘されています。

それが「急峻なフィルタリングによる弊害」です。

20kHzの壁を作る副作用

CDを作る際、20kHz以上の音をデジタルデータに入れないために、「ローパスフィルター」というデジタルの壁を通して、高音をスパッと切り落とします。

しかし、信号処理の世界では「ある周波数で急激にカットすると、その直前の周波数の波形が乱れる(位相が回る)」という物理法則があります。これをリンギングと呼びます。

本来は「パン!」という鋭い一瞬の音だったものが、20kHzで無理やりカットするフィルターを通すことで、波形の前後に余計な波(滲み)が発生してしまいます。

これにより、音の立ち上がりの鋭さが鈍ったり、空間の奥行きが不自然になったりすることがあります。

一方、ハイレゾ(96kHzや192kHz)の場合、カットする地点が48kHzや96kHzとはるか遠くにあるため、可聴域である20kHz付近へのフィルターの悪影響がほとんど及びません。

その結果、耳に聞こえる範囲の音」までもが、より正確でクリアになるのです。

ハイレゾなんて聞こえないから無意味」という反論に対し、「聞こえる範囲の音質を良くするために、聞こえない範囲の器が必要なんだ」と答えるエンジニアが多いのはこのためです。

料理に例えると分かる「倍音」の重要性

ここまで専門的な話が続きましたが、もっと直感的に理解するために「料理」に例えてみましょう。

CD音源 = 栄養素だけのサプリメント
人間が生きていくのに必要な栄養(可聴域)」は完璧に含まれています。効率的で、お腹も満たされます。

ハイレゾ音源 = 香り高いフランス料理
栄養素だけでなく、「香り」「湯気」「食感」「彩り」が含まれています。
香り(超高周波)」自体はお腹にたまりませんし、栄養にはなりません(聞こえません)。
しかし、鼻をつまんで食事をしたらどうでしょう?
味の深みが消え、何を食べているのか分かりにくくなりますよね。

音楽における「20kHz以上の成分」は、料理における香り風味のようなものです。

直接舌で感じる味(基本のメロディ)は同じでも、香り(倍音)があることで、脳は「これは高級な料理だ」「これは生の楽器だ」と認識し、深い満足感や感動を覚えるのです。

結論:自分の脳と感性を信じよう

ハイレゾの違いが分からない」と悩む必要はありません。
聴力検査のように「キーン」という音が聞こえるかどうかの勝負をしているわけではないからです。

違いを感じるためのポイントは、耳を澄ませて分析することではなく、「リラックスして音楽に身を委ねること」です。

チェックしてみよう

  • 長時間聴いていても疲れないのはどっち?
  • ボリュームを上げた時に、うるさく感じないのはどっち?
  • 楽器の周囲にある「空気」のような気配を感じるのはどっち?

もし、CDとハイレゾを聴き比べて、上記のような感覚的な「心地よさ」を少しでも感じたなら、あなたの脳はしっかりと聞こえない音」を受け取っている証拠です。

数値上のスペックや「20kHzの壁」という理屈にとらわれず、ご自身の体が感じる「快感」を基準にオーディオを楽しんでみてください。それが最も科学的で、贅沢な楽しみ方なのです。

もし、この記事を読んで「じゃあ、CD音源しか持っていない私はどうすればいいの?」と思った方は、CDの失われた高音域を復元する技術についても学んでみてください。以下の記事で詳しく解説しています。



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